「動いているから、まだ大丈夫」——基幹システムの老朽化について、多くの経営者がそう判断しています。しかし、システムが動いていることと、会社が損をしていないこと は別の話です。老朽化の真の代償は保守費の増加ではなく、見えにくい場所で発生している 『売上機会損失・人件費膨張・人材流出』 にあります。本記事では、中堅企業が老朽化を 3 年放置した場合の累積コストを試算し、経営判断に必要な視点を整理します。

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結論:老朽化の代償は『保守費』ではなく『機会損失』にある

基幹システムの老朽化と聞くと、多くの経営者は「保守費が上がる」「セキュリティが不安」を思い浮かべます。これらは間違いではありませんが、実際の経済的損失は別のところで発生 しています。

カテゴリ見えやすい代償見えにくい代償(実害の大半)
コスト面保守費の増加属人化による人件費膨張、二重入力工数
機会面セキュリティ脆弱性新規取引機会の喪失、データ活用不能による意思決定の遅れ
人材面システム障害頻発キー技術者の退職、若手の採用困難

表の右側『見えにくい代償』が、実は損失の 7~8 割を占めます。これを 可視化することが、刷新判断の出発点 です。

老朽化を見抜く『5 つの兆候』

自社の基幹システムが老朽化しているかを判定する 5 つの兆候を整理します。3 つ以上当てはまったら、刷新の検討を始めるタイミングです。

兆候 1:バージョンアップ・サポートが終了している(または予告されている)

ハードウェアの保守、OS、データベース、パッケージソフトのいずれかでサポート終了が予告されているなら、確実な老朽化サイン。延長保守は保守費が 2~3 倍に跳ね上がり、対応期間も限定的です。

兆候 2:年間改修費が初期構築費の 15% を超えている

改修費が膨らんでいるのは、システムが業務変化に追従できなくなっている証拠。年間改修費が初期構築費の 15% を超えた ら、5~7 年で初期投資と同額を改修費に投じる計算になります。

兆候 3:『触れる人』が社内で 1~2 名に絞られている

COBOL、RPG、古い PL/SQL、独自言語など、システムを保守できる技術者が社内に 1~2 名しかいない状態。その人が退職した瞬間、システムは 『誰も触れない箱』 になります。

兆候 4:業務部門から『不便』『手作業が多い』の声が増えている

帳票出力、データ抽出、他システム連携などで「Excel に落として手で加工」「ベンダーに依頼して 1 週間待ち」が日常化していたら、業務効率が大きく毀損されています。

兆候 5:セキュリティパッチが当たらない/監査で指摘される

古い OS・ミドルウェアでセキュリティパッチが提供されなくなっているケース。情報セキュリティ監査や ISMS 監査で 『要改善』『重大な脆弱性』 と指摘されたら、経営リスクとして扱うべき段階です。

放置の代償を『3 つの軸』で試算する(中堅企業モデル)

老朽化を 3 年放置した場合の累積コストを、年商 50 億円・従業員 150 名規模の中堅企業をモデルに試算します。あくまでモデルケースですが、自社の規模で読み替えてみてください。

軸 1:売上機会損失

老朽化システムでは、リアルタイムでのデータ把握ができず、意思決定が遅れます。また、大手取引先から要求される EDI 対応・トレーサビリティ対応・電子帳簿保存法対応に追いつけず、新規取引機会の喪失 が発生します。

項目年間損失(モデル)
意思決定の遅れによる機会損失(粗利の 0.5~1%)500~1,000 万円
新規取引機会の喪失(年 1~2 件、平均粗利 1,000 万円)1,000~2,000 万円
既存顧客からの取引縮小(脱落リスク)500~1,500 万円
軸 1 小計(年間)2,000~4,500 万円

軸 2:人件費膨張

古いシステムでは、業務部門が 『手作業による補完』 を強いられます。Excel での二重入力、例外処理の人手対応、月次決算の手作業集計など。これらの工数を人件費換算すると、年間で相当の額に。

項目年間損失(モデル)
二重入力・転記の工数(業務部門 全社で 1 日 30 人時換算)1,800 万円
例外処理・手作業集計の工数800 万円
属人化された担当者の残業・代休未消化400 万円
システム障害対応・復旧の工数300 万円
軸 2 小計(年間)3,300 万円

軸 3:人材流出

COBOL・RPG など旧技術の技術者が退職すると、新たな技術者の採用が極めて困難になります。「年収 1,200 万円でも応募者ゼロ」というケースも珍しくありません。さらに、若手社員の早期離職(『古い環境で働きたくない』)も発生します。

項目年間損失(モデル)
キー技術者退職時の業務停止・引き継ぎコスト500~1,500 万円(発生時)
外部委託保守費の高騰(既存ベンダー寡占)400~800 万円
若手社員の早期離職による採用・教育コスト300~600 万円
軸 3 小計(年間)1,200~2,900 万円
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3 年放置した場合の累積コスト

1 年目2 年目(+10%)3 年目(+20%)3 年累積
軸 1 売上機会損失3,000 万円3,300 万円3,600 万円9,900 万円
軸 2 人件費膨張3,300 万円3,630 万円3,960 万円10,890 万円
軸 3 人材流出2,000 万円2,200 万円2,400 万円6,600 万円
合計8,300 万円9,130 万円9,960 万円27,390 万円

3 年放置で約 2.7 億円。同じ規模の刷新投資額は 5,000 万~1.2 億円なので、刷新投資を 2~3 倍上回る損失 が水面下で発生している計算です。

これはあくまでモデルケースですが、自社の規模・業種で同じフレームで試算すれば、放置の本当のコストが見えてきます。

老朽化を放置する『3 つの典型的言い訳』

クオンツの 25 年の経験で、刷新が後ろ倒しになる理由のほとんどは、次の 3 つに集約されます。

言い訳 1:『動いているから、まだ大丈夫』

動いていることと、損失を出していないことは別問題です。前述の試算が示すように、動いているシステムでも見えない損失は積み重なっています。『動いているか』ではなく『どれだけ損をしているか』 で判断するべきです。

言い訳 2:『今は投資余力がない』

放置コストの方が刷新投資より大きいケースが多いという事実を、経営判断に織り込めていません。『投資できない』ではなく『投資しないコストの方が高い』 という視点で再評価が必要です。

言い訳 3:『今は本業が忙しくて手が回らない』

本業が好調な時期こそ、刷新の絶好のタイミングです。業績が悪化してから刷新するのは、最悪のタイミング。投資余力が落ち、業務改革のエネルギーも不足します。

刷新を決断すべき『4 つの判断ポイント』

具体的に、いつ刷新を意思決定すべきか。4 つの判断ポイントがあります。

  • ポイント 1:サポート終了の通知が来た時——延長保守で粘らず、刷新を決断するタイミング
  • ポイント 2:年間改修費が新規構築費の 15~20% を超えた時——TCO で見れば刷新が経済合理的
  • ポイント 3:キー技術者の退職または高齢化が見えた時——属人化解消の最後の機会
  • ポイント 4:業務拡大・事業転換を計画した時——新規業務に古いシステムが追従できない

4 つのうちどれか 1 つでも当てはまったら、刷新検討の開始を強く推奨します。複数当てはまる場合は、すでに手遅れ気味の可能性も。

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まとめ|まずは『見えない代償』を可視化することから

本記事の試算は中堅企業のモデルケースですが、自社の業種・規模・業務特性で読み替えれば、自社固有の放置コストが見えてきます。経営判断は 『刷新するか/しないか』ではなく、『放置のコストと刷新のコスト、どちらが大きいか』 という比較の問題です。

株式会社クオンツでは、『自社の放置コストの可視化』『刷新投資と放置コストの比較』 からのご相談を、無料で受け付けています。汎用機・オフコンからオープン系・クラウド基盤への移行プロジェクトに 25 年携わってきた経験から、貴社の業種・規模・業務特性に合わせた『見えない代償』を一緒に整理し、刷新の意思決定に必要な経営判断軸を提供します。机上のコンサルではなく、お客様の現場と並走するスタイルで、次の一歩の選択肢を整理します。

よくあるご質問

基幹システムが老朽化するとどうなりますか?
表面的には保守費の増加とセキュリティリスクが見えますが、実害の大半は『売上機会損失(リアルタイム情報不足・新規取引機会の喪失)』『人件費膨張(二重入力・例外処理の手作業)』『人材流出(キー技術者退職・若手離職)』の 3 軸で発生します。中堅企業(年商 50 億円規模)のモデルケースでは、3 年放置で約 2.7 億円の累積損失というのが現実的な試算です。
何年使ったら老朽化と判断すべきですか?
年数ではなく『兆候』で判断すべきです。①ハードウェア・OS・パッケージのサポート終了が予告されている、②年間改修費が初期構築費の 15% を超えた、③社内で触れる人が 1~2 名に絞られている、④業務部門から『不便』『手作業が多い』の声が増えている、⑤セキュリティパッチが当たらない/監査で指摘される、の 5 つの兆候のうち 3 つ以上で老朽化と判定できます。
老朽化の費用面の実害はどれくらいですか?
中堅企業(年商 50 億円・従業員 150 名)モデルで、年間 8,000 万~1 億円規模の損失が発生します。内訳は売上機会損失 2,000~4,500 万円、人件費膨張 3,300 万円、人材流出 1,200~2,900 万円。これは『見えにくい代償』で、保守費の増加(年 200~500 万円規模)の数倍にあたります。3 年放置で累積 2.7 億円規模、同等の刷新投資額(5,000 万~1.2 億円)を 2~3 倍上回ります。
動いているシステムを刷新する必要は本当にありますか?
『動いている』ことと『損をしていない』ことは別問題です。動いているシステムでも、業務部門の手作業補完・属人化による人件費・新規取引機会の喪失といった見えない損失が発生しています。経営判断は『刷新するか/しないか』ではなく『放置コストと刷新コスト、どちらが大きいか』の比較問題として捉えるべきです。
老朽化を放置する経営リスクは何ですか?
3 つの経営リスクが顕在化します。①売上機会のリスク(大手取引先からの取引縮小・新規取引獲得の機会喪失)、②人材リスク(キー技術者退職時の業務停止・若手社員の早期離職)、③コンプライアンスリスク(セキュリティ監査・電子帳簿保存法・インボイス制度対応の遅れ)。特に①と②は数値化が遅れがちで、気付いた時には経営判断の選択肢が狭まっています。
技術者がいなくなったらどうすればいいですか?
外部ベンダーへの委託は可能ですが、COBOL・RPG・独自言語の技術者は市場でも希少で、保守費が年 1,000 万~2,000 万円規模に高騰します。さらに、新規開発・改修は事実上できなくなり、業務変化への追従が止まります。技術者が 1~2 名に絞られた段階で、刷新の意思決定をすることを強くお勧めします。
老朽化判定で経営層が見るべきポイントは?
技術的な判断は情シスやベンダーに任せ、経営層は『放置コストの可視化』に集中すべきです。具体的には、①売上機会損失(粗利の何 % が損失か)、②人件費膨張(業務部門の手作業工数を金額換算)、③人材流出リスク(キー技術者の年齢・退職可能性)、の 3 軸で年間損失額を試算する。これを刷新投資額と比較すれば、意思決定の経済合理性が見えてきます。

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